Bob Dylan @ Beacon Theatre

夕べはマンハッタンのビーコン・シアターまで、ボブ・ディランのコンサートに行って来た。

ディランのコンサートはこれで3度目。

1度目は、(卒業せずに途中止めした)大学院時代。1997年4月に、キャンパス内の体育館でコンサートをやるという情報が、当時同じ大学で寮に住んでた弟から入ってきた。そんなに大きいとも思えない体育館で、中に入ると、両側に階段式の席があるだけで、椅子も設置されてなかった。「こんなとこでディランがやるんかいな。」と、本人を実際に見るまで疑い続けた。

その時のディランは、期待通りだった。当然バンドも連れてきてたが、中盤にはアコースティックギター一本で『Mr. Tambourine Man』、アンコールには自分の大好きな『Forever Young』や『Rainy Day Women #12 & 35』もやった。なにしろ椅子がなかったんで、終わりの方はディランの表情がはっきり見えるくらいステージに近づいて聴けた。

でも、『普通のディラン』を見るのは、あれが最初で最後だったのかもしれない。いや、ディランに『普通』を求めること自体、間違ってるのかもしれない。

2度目は、2009年11月のマンハッタンのユナイテッド・パレス・シアターで、前座は『The Wanderer』で有名なディオン。

あまりギターを弾かなくなったとは聞いてたが、その日のコンサートは、ディランがギターを弾いたのは確か1曲のみ。後は全てキーボードで、それも、ただでさえほとんどの曲をアレンジし直してるのに、あの声だとあまり聞き取れないんで、途中までどの曲かわからないのが多かった。個人的にはじっくり聴けて楽しかったし、大好きな『Like a Rolling Stone』もやってくれたんで、決して酷いコンサートってわけじゃなかったけど、やはり1度目の印象が強かったんで、あれからも何度かこの近辺でコンサートをするという情報は入ってきたが、「もうディランはええかな。」と思ったのが正直なところ。

ならば、なぜ今回再び興味を持ったのか。

上手く説明できないが、要するに直感だった。

あのステープル・シンガースのメイヴィス・ステイプルズが前座で出演するというのもあったが、それだけでは行く気にならなかったと思う。

そのうえ今回のツアーのレビューも散々。

昨日の昼過ぎギリギリまで迷ってたが、思い切って行くことにした。なぜか行かねばならない感じがした。とりあえず、売れ残ってた中では一番安い値段で二階の二列目という良さそうなのがあったんで、チケット購入。

会場に入ると、自分の席は、一番端っこだったが、ビーコンは基本的に二階か三階なら、どこに座っててもよく見えるというのは知ってたし、予想してたよりもステージに近くて、いい席だった。

メイヴィスは期待以上に盛り上げてくれた。実は元々あまり曲を知らなかったが、殆どがちゃんと歌詞を聞き取れた。観客とのやりとりも楽しかった。

そしてディラン登場。バンドはロックもブルースもカントリーも、そしてジャズっぽい雰囲気の演奏もこなせて凄かったが、本人は全くギターを弾かなかった。去年の映像などを見ると、決して弾けなくなったわけではなく、何等かの理由があるらしい。

多くの曲が、彼のオリジナルを例によってアレンジし直したもので、前回のようなキーボードじゃなく、ピアノを弾きながら歌っていた。当然その方がよかった。

合間に立ち上がって、マイクスタンドを握り、『Melancholy Mood』や『Once Upon a Time』などのフランク・シナトラやトニー・ベネットのカバー、そしてジャズの定番『Autumn Leaves』(枯葉)も歌ったりした。

アンコールの1曲目は、ディランの曲では世界で最も有名な『Blowin’ in the Wind』(風に吹かれて)だったが、それをやけに明るいカントリー風に仕上げてた。最後は『Ballad of a Thin Man』。

メイヴィスとは反対に、ディランはコンサート中一度も語らなかった。挨拶もなければ、曲の紹介も、バンドメンバーの紹介もなし。アンコールが終わると、バンドメンバー達と並んで、ちょっと両手を挙げた程度。もしかしたら、今回はあえてこういう路線にしたのかもしれない。

ディランの歴史を振り返ると、いい意味でも悪い意味でも、ファンの期待を何度も裏切ってきてるような気がする。そういう点では、マドンナや松田聖子、そしてアントニオ猪木にも共通している。って、比べたら怒られるか。(笑)

1960年代初期、アコースティックギター一本のフォーク歌手として人気が出たかと思えば、バンドを起用して、『Like a Rolling Stones』のような曲を出した時、多くのファンを怒らせたらしい。

1979年には、突如クリスチャンアルバムを発表し、コンサートでもイエス・キリストについて語るようになった。多くのファンは『反体制派』のディランが好きだったわけで、当然ブーイングが多かったとか。

かと思えば、クリスチャンアルバムも3枚で終わり。

今回のツアーのようなのも、期待して聴きに行った多くの人達を裏切ってるはず。事実、昔のディランしか知らない人達からは、ギターも全く弾かず、その上ジャズっぽい曲のカバーを歌う姿を見て「ギター弾けなくなったのか?」とか「そろそろネタ切れか?」、「引退した方がいいのでは?」などという意見もあるが、自分はそうは思わなかった。昔から彼の歌声には賛否両論あるが、彼が歌うジャズっぽいスタンダード曲も、ディランなりのセンスがあって、決して悪くないと思う。ポール・マッカートニーやローリング・ストーンズの様に昔のことを中心にやってりゃファンは十分喜ぶのに、年齢を重ねながらも今尚新しいことを試し続ける76歳のディランの姿を見て、「やっぱこの人、すげぇわ…。」と感じた。

そんなディラン、最近出たアルバムが凄そうだ。とはいえ新作ではなく、恒例のブートレグシリーズだが、1979年から1981年の間、クリスチャンとして活動していた期間からのアウトテイクやライブ版、未発表の曲が収録されている2枚組。また、CD8枚+DVD1枚のボックスセットも出ているらしい。

今の混乱した世の中、あえてこのタイミングでこんなのを出すのが興味深いが、『Trouble No More』のタイトルどおり、これを機に、ディランが歌うゴスペルから、一人でも多くの人達が何かを感じ取れたらと思う。

Jesus loves y’all.

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