カルトよいとこ一度はおいで

昔の話だが、日本では相変わらずこの話題が続いてるみたいなんで、色々思い出しながら書いてみようかと。

テキサスの大学時代のある日、キャンパスの中を歩いていたら見知らぬ東洋人女性に声をかけられた。

「Excuse me… Are you Korean?」

当然のことながら、その雰囲気と発音ですぐに日本人だと判った。

「No, I’m Japanese.」

あえて英語で答える意地悪な自分。

「Oh, I am Zapanese too.」

思わず「But I’m not ザパニーズ…」って突っ込みそうになったが、とりあえず笑いをこらえることはできた。

その女性は、鞄から何かパンフレットのようなものを持ち出してから言った。

「C●●Pという団体、ご存じですか?」

怪しいと思ったけど、わざとボケる余裕はあったんで、答えてみた。

「はい、もちろん。広島出身なんで。」

何かようわからんが、どこかの青年団体とやらを紹介された。略称で4文字とはいえ、我が故郷のプロ野球チームと同名とはええ度胸じゃねぇか。クリスチャンを自称するんで、こっちもそうだと伝えたら、ちょっと戸惑っていたように思えた。

その団体について色々紹介してきたと思ったら、今度は「もう少しゆっくりお話ししたいですね。日本食ご馳走しますので、よろしかったら今晩いらっしゃいませんか。」とのこと。まだ火曜か水曜だったんで、(金曜は飲みに出かけたいし)木曜でどうかと尋ねたら、なぜかなるべくその晩がいいと言う。怪しさ倍増。

なんとなく面倒だと思いながらも、気が変わればいつでも電話で断れると思って、とりあえずお邪魔する羽目に。

とはいえやっぱ怪し過ぎるんで、授業が終って家に帰った後、同じ大学の数少ない日本人クリスチャンの1人に電話して、そんな人に出くわしたことがないか訊いてみた。

「あ~、ヒサくんも誘われちゃったのね。実はあの人ねぇ…」

なるほど。日本食をご馳走してくれるとか言ってたけど、(わしでも作れる)親子丼だけか。

もとい…

なるほど。やっぱあのカルト教団か。ならば尚更、絶対入信しないという自信があったし、どうせ親子丼だけで特に酒や肴も出そうにないなら、メシだけ喰わせてもらってさっさと帰ってこようと思ったという、初対面の人様にお呼ばれになったのに超図々しいクソガキだった自分。

誘われたアパートは、学生用っぽくキャンパスのすぐ近くにあったんで、数名の知人が住んでたが、日本人なんて見たことなかった。っつうか、当時は、アメリカに来てまで先輩後輩とかやってる人達が面倒で、日本人とはなるべく付き合わないようにしてたんで、仮にそのアパートのどこかに日本人が住んでたとしても知る余地もない。

部屋に入ると、家具が殆どない。怪しさ更に倍増。

食事の準備中、リビングルームで教祖のビデオを観る羽目に。その教祖とやら、世界的に悪名高いエロじじいだが、決してアダルトビデオではなかったということは念のため付け足しておこう。とにかく、「これ、どう見ても変だろ。」と、かなり引いてしまったわけだが、そのご夫婦は誇らしげな表情をしていた。

ビデオを観終わると、ご主人に促され別室に連れて行かれた。ホワイトボードとテーブル、そして椅子が1つしかない。ビデオ用のモニターもあったかもしらんが憶えてない。複数ではなく、あくまで独りずつの勧誘なんだろうな。怪しさ益々倍増。

案の定その部屋で講習を受ける羽目に。どう考えても、まだ話は終わってねぇだろってタイミングなのに、「今日はここまでにしたいと思いますが、何か質問ありますか?」とか言いやがる。内容さえ憶えてはいないが、違和感を持ったことについて実際に質問すると、別に今後も通い続けるって約束してないのに、「それは次回以降いらした際に少しずつお答えしていく予定です。」とか言いやがる。そうやって継続して通わせながらマインドコントロールをするというやり口なんて、まだガキだった自分にでも解った。ここまでくると、怪しさ倍増どころじゃねぇ。

食事を頂いた後も、ご主人が「僕も実は以前クリスチャンだったんですが、やはりおかしいと思ったんですよ。」などと色々言ってきた。勧誘する時だけ自称クリスチャンだが、蓋を開けたら結局否定する。宗教詐称っつうか、単に詐欺だわな。もちろん次回の講習はしっかり断ってきた。

アパートを出たら、奥さんが駐車場まで見送ってくれた。さっさと車に乗ろうと思ったその時、

「ねぇ、これだけは言わせて。イエス様ではダメだったのよ。それは解ってほしいの。だって、十字架で殺されたでしょ? あれで全てが終わったのよ。」

結局、クリスチャンとしての信仰の最も重要な部分も解らないままカルトに引っ張り込まれた人達ってことなのか。それとも、それさえも解ってない自称クリスチャンが実際に多く、そういう人達にはこの一言が勧誘する際に効き目があるってことなのか。とにかく、「おばちゃん、解っとらんのぉ…。」って思った。

まともに信仰について語っても話にならないので、あえて一般のクリスチャンが聞いたら激怒しそうな変化球を投げてみた。

「でも若くして殺されたからこそ、(後でボロ出すことなく)名前が語り継がれてるのかもしれない人達っていますよね。リンカーンとか、キング牧師とか、ジョン・レノンとか。みんな死んだことで終わらず、大きな影響及ぼし続けてますよね。」

すると、彼女はしばらく黙り込んだ後、何も言えなくなったのか、それとも「この子、キリスト教のこと、もしかして全然解ってない?」って思ったのか知らんが、笑顔で返してきた。

「まぁ、田辺君の場合は、まだ若いから、こういう話は早過ぎたのかもね。でも、いつかきっと、『またあのドアをノックしてみよう。』って思う日が来るのよ。そしたら、いつでも遠慮なくおいでね。」

だったら大学なんかで勧誘してんじゃねぇよ。どうせいつでも引っ越せるように荷物少なくしてるくせに、何が「いつかきっと」じゃ。口には出さなかったけど、そう思った。

もちろん本人達は、その詐欺紛いの方法も含めて本気で『正しいこと』だと信じているので、騙してやろうだなんて思ってはいない。だからこそ尚更面倒なんよな。

その晩、国際電話で日本にいる親父に話したら、「はぁ!? 知らずに行ったんならしょうがねぇがのぉ、知っとって行ったんか!? あいつらぁ、ヤ●ザよりタチが悪いんじゃけぇ、二度と行くなや!」って、かなり叱られた。

数週間後、車がおかしくなる度に持って行く修理屋で、待合エリアのソファに座り店員と話をしてたら、なんと、そのご主人の方が入って来た。わざと声をかけずにガン見し続けたが、こっちがいるのに気付いてたくせにテレビから目をそらさず、一生懸命こっちを見てないふりをしてるようだった。もし奥さんもそこにいたなら、声をかけてきたかも知らんが…。それ以降その夫婦を見ることはなかったんで、おそらくまた新しい布教の場を求めてあの町を去っていったんだろう。

…とまぁ、まだまだ若かった20歳前後の自分。さすがに、あれ以降人間としてもクリスチャンとしても多少は成長したわけで、今だったら睨んだりして挑発的にならず、もうちょっと愛情のこもった対応ができてたような気がする。とはいえ、いくら誘われてもイベントには絶対参加しないけどね。多くの『先生方』みたいに、後になって「あいつも現場にいた」とか言われたくないし。

もちろん、信仰ってのを持ってない人達には、自分も似たような感じに見えることがあるかもしれない。だが、自分の信仰ってのは、家庭の生活に支障がでるほどの多額な寄付をしたり、いらん物を買わさせられたり、家族との関係はもちろん、自分自身のことまでダメにしていく『破壊的カルト』ってのとは違う。

後から聞いた話によると、そのカルト教団ってのは、話を全て聞いてくれそうな純粋で素直な人達が引き込まれる傾向が多いようで、実際信者の中には、我々クリスチャンも見習うべきだと思えるくらい、本当に『いい人』という言葉が似合いそうな人達が多い。事実、テキサスで出会ったご夫婦も、ご主人は笑顔を保ちながらもなんとなく心を閉ざしているような雰囲気があったが、奥さんは結構感じのいい人だった。その一方で、変に気が強そうに見えたり、色々な質問を投げかけてくるような、教団にとって不満分子になる可能性のある人達ってのは勧誘し続けないらしい。

自分の場合もまた、「こりゃ突っ込みどころ満載じゃ」とか思って質問なんかしちゃったもんで、「彼のような人間は神の御国を受け継ぐことはできない」(=このガキ使えねぇ…)と思われたのか、その後連絡してくることは全くなかったので、1度の訪問だけで済んだ。今思うと超無謀なことをしたわけだが、そんな自分でも神様は守ってくださったんだと信じたい。

よい子はマネしないでね。

Jesus loves y’all.

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