たんと (Scarsdale)

2週間前の土曜、いつものように親子で…というか、その時は珍しく嫁さんも含んだ家族3人で昼メシを済ませたら、帰りがけに店の人が言ってきた。

「I have a sad annoucement to make…」 (悲しいお知らせがあります)

一瞬、共通の知り合いが亡くなったのかと思った。

なんと、経営者が引退で、7月末で閉店するとのこと。

この店に来始めて、かれこれ20年近くなるだろうか。

前の経営者は、自分の友人で、うちの教会員だった。彼がここで働くようになり、そのうち店も買い取り、それまではパン屋と弁当屋という感じだったが、ラーメンも始めた。2004年には、自分も近所の会社で働くようになり、昼メシを喰いに行く頻度も高くなった。メニューには寿司や弁当など色々あるのだが、何故か自分はラーメンしか注文しなかった。

決して、どこにでもあるラーメンではなかったが、かといって、超ユニークってわけでもなかった。ここでは詳しいことは書けないが(笑)、彼がどうやってダシを作ってるかある程度知ってたんで、とりあえず不味いわけはないということは承知していた。あの頃のことは、12年前にもちょっとだけ書いたが、今読み返すと、ニューヨーク近郊でラーメン屋の数が相当増えたのを実感する。

「今度から来る前に電話してくれる?」

ある日そう言われたんで、大体到着15分前くらいに車から電話するようにした。

その頃から店長がいる時はほぼ毎回、メニューにはない、実験的なラーメンが出てくるようになった。

ある時はトムヤムクンラーメン。正直、タイ料理って、大好きってわけじゃないんだが、なんとか喰えた。

ある時は紹興酒をぶち込んだラーメン。独特の味がして美味しかったけど、昼間っからほろ酔いだった。

またある時は、電話したら、「今日は田辺さん来そうな気がしたんで、『ジャーマンラーメン』ってのを出そうと思って。」とか言うんで、どうせミルクを混ぜてクリームっぽい味付けにしたスープに、ソーセージやイモが浮いてんだろうと思って行ったら、案の定そうだった。

そしてある時、「今日は『普通のラーメン』にしてみたんだけど。」って。正直、一連の実験ラーメンの中では、あれが一番美味しかったんで、「やればできるんじゃん! メニューに、『普通のラーメン』とかで載せたら?」とか提案してみたが、「いやぁ、色々あってさ。」で片づけられた。

彼はドラマー、自分はピアニストだったんで、もう1人の教会員でギターもベースもドラムもこなす奴を連れてきて、3人で楽器を持ち込み、あの狭い店で演奏してみたこともあったが、夕方には隣のレストランでピアニストが演奏するとかいう理由で苦情が出たらしく、長続きしなかった。

友人経営ってことで、自分にも少々甘えや図々しさが出て来てたみたいで、時には閉店時間を狙ったり、残業してるのを確認したりして、ビールを買って持ち込んで、余った食べ物をつまみにして飲んだりしたこともあった。店長だけではなく、厨房のメキシコ人の店員も引っ張り込んだこともあった。色々迷惑かけたかもしれない。全然反省してないけど。(笑)

だが、その友人も、10年ちょっと前だったか、別の人達に店を売り、その後もしばらくこの辺にいたけど、結局カリフォルニアに引っ越して行った。

新しく経営者になったのはCさんとKさんで、2人とも韓国人の女性だったが、Cさんは日本へ留学してたとかで、英語と日本語の3ヶ国語を喋れた。

正直、店の中は以前より、きれいになったと思う。ラーメンの味も基本的には毎回同じだったし、色んな意味で安定したかも。(笑)

何年か前に、斜め前にある日系食料品店が、隣の店も買い取り、店を拡張してラーメン屋を始めた時、他の多くの日本人客はそっちに流れた。でも我が家にとっては、どうもそっちの店は色んな意味で居心地が悪かったんで、引き続き同じ店に通い続けた。

だが、3、4年前だったか、Cさんが、お孫さんの面倒を見なきゃならないとかで、メリーランド州に引っ越してって、Kさんの娘のJさんが店を手伝うようになった。日本語を話す人が店からいなくなったってのは、更なる打撃があったかもしれない。少なくとも自分には日本人じゃない客は増えたように思えたが…。

それでも、せがれと自分はというと、ほぼ毎週土曜の昼メシは、ここに来るのが習慣になってた。

決して最高のラーメンってわけじゃないし、日本に昔からある典型的なラーメンってわけでもない。でも、ここ数年のラーメンブームで、どの店も変に特徴を出し過ぎようとしてる中、とりあえず気楽に安心して喰える味だったと思う。

せがれが生まれた時もCさんとKさんは、すごい喜んでくれた。赤ん坊の時からずっと連れてってんで、Kさんなんか、英語も日本語もあまり話せず言葉でのコミュニケーションこそ少なかったが、7歳になったせがれを今でも時々ハグさせろと近づいてくる。これまでのあいつの成長を見守ってくれてたようなもんだ。

3日後の7月31日に閉店なので、この店に来るのは今日で最後。

たんと - 2018年7月28日

自分にとって、1週間のうち唯一ゆっくりできる土曜はいつも起きるのが遅く、朝メシも10時過ぎたりするんで、昼は2時とか3時。それでも大抵他のお客さん達が喰ってたが、今日は誰もいなかった。

せがれと一緒に店に入り座ってると、すぐに若い男性が入って来て、Jさんに、「僕が5歳の頃からこの店に来続けることができて、本当に感謝しています。」と言った。本人に尋ねたら、今25歳らしい。うちら親子以外に来てた、たった1人の客が、自分同様20年この店に来続けてたってのに不思議なものを感じた。

このニューヨーク近郊で、自分が気に入ってよく顔出す飲食店は6件。その内、なくなると調子狂いそうな店は4件。ここはその中の1件で、最も頻繁に来る店だった。

それだけ思い出も思い入れも半端じゃない。

こういう店が存在していたことを神に感謝したいと思う。

さぁ~て、来週の土曜からはどうしよっかなぁ…。

Jesus loves y’all.

Tanto Japanese Deli
839 White Plains Rd.
Scarsdale, New York 10583
phone: (914) 725-9100

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